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8年前の夏休みからの「旅立ち」

あけましておめでとうございます。編集プロダクション「プレスラボ」の野村英之(@yanson0218)です。弊社では毎年年賀状の代わりに、お題を決めた年賀コラムをメンバーの一人ひとりがUPしています。2021年はnoteで「旅立ち」をテーマにお届けします。


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プレスラボに転職してあっという間に9ヵ月が経った。今年の年賀状コラムのテーマは「旅立ち」。2020年は誰にとっても特別な一年だったと思うが、僕はコロナ禍で転職し、編集者見習いとしてのスタートを切った年だったので、今回のテーマにドンピシャだと思った。
「旅立ち」、「旅」…だんだん「旅」に引っ張られてきたな。一旦「旅」について書いてみよう。あとで「旅立ち」と無理やり結びつけてしまえ!

大学3回生の夏、僕はアルバイト仲間のぶっちーと2人でペルーに行った。大学生がやりがちな、いわゆる「バックパッカー」として南米ペルーに3週間滞在。バックパッカーとは言ったが、ペルーで本物のバックパッカー(1年くらい旅している人)と会って、僕らのやっていたことはただの旅行だと気づかされることになった。

大学生だったのでお金もなく、日本とペルーの往復交通費を除く3週間で、1人約13万の予算で過ごした。限られた予算の中で、マチュピチュ、ティティカカ湖、アマゾン川など、ペルーをほぼ1周することができた。高山病を患ったり、友達でもない僕たちに「アミーゴ! アミーゴ!」と肩を組むように近寄ってくる現地の人に戸惑ったり、タクシーの運転手にだまされて、スペイン語vs日本語という何の解決もしないどなり合いをしたり、それはそれは楽しい旅行だった。

ペルーのあいつ


(このときは「アミーゴ」と言って愛想良く近寄ってきた彼と、このあとどなり合いをすることになるとは想像もしなかったな。この顔絶対忘れへん。むかついてきた)


そういえばこの旅行中、ぶっちーはお土産ばかり買っていたな。この数日前に訪れた街では、大きなチェスセットを買っていた。ぶっちーがなぜそれを買ったのかいまだに理解ができない。サイズが大きすぎて運ぶのに苦労して勝手にイライラしていたこととか、空港職員の荷扱いの荒さのせいで、日本に着いたときには壊れていたことを思い出すと、もう8年も経つのに腹が立ってきた。

チェス


(リアルすぎるのも腹が立つ、日本に着いた頃には駒たちはバラバラに)


楽しい旅行だったと言ったが、タクシーの運転手(以降、アミーゴとする)を思い出したら苛立ちが収まらなくなったので、アミーゴの話をする。

アマゾン川の上流、ペルー北部地域のイキトスという都市の空港で出会った。こんな言い方をすると本当のアミーゴ(友達)みたいで、また腹が立ってきた。『地球の歩き方』に載っているゲストハウスまで、乗せてもらうことになった。

アミーゴから「ゲストハウスまでは12ソル(ペルーの通貨)」と言われ、言語が分からなかった僕たちは、iPhoneの画面に数字を入力し、確認をした上で乗車。

ゲストハウスに到着し、12ソルを支払った。その時点でアミーゴは納得していない表情をしていたが、気にせずチェックインに向かった。ゲストハウスはオートロックで、インターホンを鳴らして入室。しかしゲストハウスは満室だった。スタッフは僕らを気遣い、安価な他のホテルを探してくれることとなった。

その間、ゲストハウス内にはインターホンが鳴り続けていた。スタッフが扉を開けたその前にアミーゴは立っていた。スタッフに対して「あいつらはお金を支払っていない」とでも言っているようだった。

玄関口にはアミーゴが立っている。「20ソル払え」とジェスチャーをしながら、すごく怒っている。僕は納得がいかない。ここから僕とアミーゴのどなり合いが始まった。日本語とスペイン語でのどなり合いは5分ほど繰り広げられた。

そのとき横からとてつもない殺気を感じた。ぶっちーが怒っている。彼が怒っているところを過去一度も見たことがなかった僕は、思わず笑いそうになったが、どなり合いを続ける。そのときだった。

「ええかげんにせーよこららああ!!」

ぶっちーが叫ぶようにどなった。人間こんなに舌を巻くことができるんだ、と一瞬感動したほどだった。ちょうど日本を発って2週間ほどが経っていた。疲れもピーク、そのタイミングでアミーゴの詐欺。まあ怒るのも仕方がない。

「アミーゴ」

アミーゴは聞こえるか聞こえないかの小さな声で、シュンとしたような顔で僕らに言った。ぶっちーの怒号は決定力があった。ぶっちーはどなった直後、高速で歩き出した。僕も急いで追いかけた。アミーゴはもう追っては来なかった。

ぶっちーはその日ずっと機嫌が悪かった。出かけることもなく、ずっと部屋で『イージュー ライダー』を聴いていた。そういえばこの旅行中、部屋にいるときは奥田民生の曲ばかり聴いていた。部屋で2人しかいないときは、僕が他の曲を流すと「次この曲がいい」と食い気味に奥田民生の曲を流すのだ。僕は奥田民生のことが嫌いになった(今は好き)。

あれから8年。

今このエッセイを書いている。アミーゴへの苛立ちは2020年に置いていこうと思う。もう心の中で保管しておく必要はない。古傷が完全に癒えた。ようやく苛立ちのない自分の人生が再スタートする。20代最後の年の2021年は、20代最高の1年になるに違いない。

そういえばぶっちーは叫んだあと僕を置き去りにして行ったな。自分だけ逃げたということか。そう思うとまた腹が立ってきた。ぶっちーへの苛立ちからは旅立つことができない。8年前の夏休みのことを思い出して、苛立ちを蘇らせている僕は、旅立ちが苦手ということ。

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